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札幌地方裁判所 昭和57年(ワ)2133号 判決

原告 渡辺良之

被告 北海道

代理人 菅原崇 田原国雄 ほか九名

主文

一  原告の請求を破棄する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、四〇〇〇万円及びこれに対する昭和五四年八月九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文と同旨。

2  仮執行免脱宣言。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  北海道知事の行政処分

原告は、石狩後志海区におけるさけ定置漁業権の第六次切替え(免許期間、昭和五四年から昭和五八年まで)に際して、訴外渡辺精一郎と共同で、右漁業権のうち石さけ定第四号定置漁業権(以下「本件漁業権」ともいう。また、各定置漁業権については、「第六次第四号定置漁業権」又は「第六次第四号」のようにもいう。)の設定につき、北海道知事(以下「道知事」という。)にその免許を申請したところ、同漁業権については、訴外石狩漁業協同組合(以下「石狩漁協」という。)からも免許申請がなされたため、いわゆる競争出願となり、道知事は、昭和五四年八月八日付で石狩漁協に対して本件漁業権を免許する旨の行政処分(以下「本件免許処分」という。)をし、一方、原告及び渡辺に対しては右同日付で、「申請に係る定置漁業権については、他の者と競争出願となつたところ、漁業法(昭和二四年法律第二六七号)第一五条の規定により、優先順位の上位者に免許したため」との理由で、本件漁業権を免許しない旨の行政処分(以下「本件不免許処分」という。)をした。(本件免許処分と本件不免許処分を合わせて、以下「本件各処分」という。)

2  本件各処分の違法性

石狩漁協は次のとおり本件漁業権の免許を許されない者であるから、かかる者に同漁業権を免許した本件免許処分は違法であり、ひいては、同漁業権の競願者は原告及び渡辺のみで、かつ、原告らは右の免許を受ける適格を有していたから、原告らに本件漁業権を免許しない旨の本件不免許処分も違法である。

(一) 漁業法一三条一項一号違反

以下のとおり、石狩漁協には、漁業法(以下単に「法」ともいう。)一四条一項一号所定の定置漁業権の免許を受ける適格性を欠く事由があつた。

(1) (漁業法一四条一項一号前段所定の事由)

石狩漁協は、本件各処分当時、次のとおり、法一四条一項一号前段所定の漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠く者であつた。

イ (漁業権の貸付け)

(イ) 石狩漁協は、石狩後志海区におけるさけ定置漁業権の第五次切替え(免許期間 昭和四九年から昭和五三年まで)に際し、昭和四九年八月二〇日付で、道知事から石狩さけ定第四、五号の各定置漁業権免許を受けたところ、右第四号定置漁業権を昭和四九年から昭和五一年まで三年間訴外荒谷幸雄に対し貸し付け、右第五号定置漁業権を昭和四九年から昭和五三年までの全免許期間五年間にわたつて訴外丹野一美及び訴外丹野義美の両名に貸し付けた。右各漁業権貸付けに基づいて、荒谷及び丹野らは、右各貸付期間中それぞれ右第四号、第五号の定置漁業を操業した。

石狩漁協の右各漁業権貸付けは、法三〇条所定の漁業権の貸付禁止に違反する違法行為である。

(ロ) 特に、右第五号定置漁業権の貸付けについては、当時の石狩漁協の組合長が、前記免許取得の五か月前の昭和四九年三月一四日付けで、丹野一美との間で、同人に対しさけ定置漁場を同年四月一五日までに与えるよう取り計ることを確約する旨の「確約書」を取り交わしたうえ、丹野らに右定置漁業を操業させる目的で右漁協において右免許を取得し、更に、免許取得後同年九月一四日付けで、右組合長が石狩漁協組合長理事の資格を明示して丹野一美及び丹野義美との間で、右免許に係る第五次第五号定置漁業権については右両名に無条件で同年より五年間操業させる旨明記した「覚書」を取り交わすという経過を辿つて、極めて計画的に実行されたものである。

しかも、右覚書は、当時の石狩支庁長、北海道水産部長、同開発調整部長が立ち会つたうえ、その積極的な関与の下に作成されたものである。

(ハ) ところで、被告は、後記二2(一)(1)イ(イ)bのとおり前記各漁業権貸付行為の存在を否定し、荒谷及び丹野らの各定置漁業の操業は、石狩漁協から道知事に対し当該期間中の休業届がなされたので、荒谷及び丹野らが法三六条所定の休業中の漁業許可の申請をし、道知事の許可を受けたことによるものである旨主張する。

しかしながら、右の休業届、休業中の漁業許可申請は、右漁協が当初から右各漁業権を荒谷及び丹野らに操業させる旨右の者らと約したうえ、専らその目的の下に前記各免許を受けて、自らは右各定置漁業を全く操業せずに右の者らに操業させるという、正にその実態において法三〇条が禁止する漁業権の貸付けにほかならない行為を、法形式上合法的なものとしその違法な実態を糊塗するための手段として、脱法的に利用されたものにすぎない。現に、前記覚書には、このような脱法的手段を用いたうえ丹野らに前記定置漁業を操業させる旨明記されており、前記各漁業権貸付行為は、このような法形式上のつじつま合わせを伴つている点において、一層悪質なものというべきである。

また、右脱法的手段は、前記覚書作成に立ち会つた道幹部らにおいて、前記休業届、休業中の漁業許可申請に対応して、右許可手続が順調に行われ得ることを事実上保証したうえとられたものである。

ロ (無届休業)

石狩漁協は、前記第五次切替えに際し、道知事から第五次第三号、第六号の各定置漁業権免許をも受けたが、右第三号については昭和四九年から昭和五一年までの三年間、右第六号については昭和五〇年の一年間、いずれも一漁業時期以上にわたつて休業したにもかかわらず、法三五条に違反して道知事に対し休業につきあらかじめ届け出ることを怠つた。

右休業届の懈怠は、他の漁民による休業中の漁業許可申請の機会を不当に奪うものであり、罰金刑の制裁が規定(法一四四条一号)されているほか、定置漁業権免許取消事由(法三七条一項、三九条二項)にもされている。

ハ (北海道内水面漁業調整規則違反、北海道海面漁業調整規則違反)

(イ) 昭和五一年一〇月七日夜から翌八日朝にかけて、当時の石狩漁協理事一名、同監事一名を含む五名の者が石狩町生振地内石狩大橋から上流二キロメートルの石狩川左岸において、川舟七隻を用いて刺し網をかけてさけ成熟魚一〇〇余匹を密漁し、北海道内水面漁業調整規則(以下「内水面規則」ともいう。)違反等により現行犯逮捕された。

右密漁事件は、世間の厳しい非難を受け、北海道の関係部局も、従前の経緯からみて組合ぐるみの不祥事とみられてもやむを得ないなどとの見解を表明した。

(ロ) 同年一〇月一四日、当時の石狩漁協の組合長及び理事等八名の役員を含む組合員三四名がさけを密漁し、北海道海面漁業調整規則(以下「海面規則」ともいう。)違反により、小樽海上保安部に摘発された。

右密漁事件は、石狩漁協自身が試験操業と称して大量の刺し網を付設してなした計画的集団的犯行である。

(ハ) また、昭和四六年にも、当時の石狩漁協の理事が、厳重に禁止されている板曳漁法を行つて逮捕されている。

ニ 以上のとおり、石狩漁協は、漁業法、漁業調整規則などの漁業に関する法令に違反する行為を繰り返し、本件各処分当時、今後とも右違法行為を反復継続する畏れは十分に存し、右法令を遵守する精神を著しく欠いていたものである。

(2) (漁業法一四条一項一号後段所定の事由)

石狩漁協は、本件各処分当時、次のとおり、法一四条一項一号後段所定の漁村の民主化を阻害する者であつた。

イ 原告は、かつて石狩漁協の組合員であつたが、昭和五〇年五月、右漁協の財政の非民主的運営等に疑問を抱いてこれから任意脱退した後、昭和五三年一二月二三日右漁協に再加入を申請した。

ところが、石狩漁協は、原告がその組合員になり得る資格を有し、かつ、その加入を拒む正当理由がないにもかかわらず、水産業協同組合法(以下「水協法」という。)二五条に違反して右加入申請を拒絶した。原告は、その後右加入につき関係者と協議したものの結局右漁協の加入承諾を得られず、昭和五四年四月右加入承諾を求めて訴えを提起したところ(当庁昭和五四年(ワ)第六二八号)、その第一審判決(昭和五七年二月一日言渡し)は、右加入拒絶には正当理由が認められないとして原告の請求を認容した。

水協法に基づき設立された漁業協同組合が、このように正当理由がないのに漁民の組合加入を拒絶すること自体、漁村の民主化を阻害するものである。

ロ 加えて、原告の右訴え提起後昭和五四年六月ころから、石狩漁協の元監事長が中心になつて、組合長に対し原告の組合加入を絶対に拒否するよう求める請願署名運動を展開し、多数の組合員の署名を集めたが、これは、原告を実質的に村八分とする目的で組織的になされた人権侵害行為であつた。

石狩漁協の組合長等理事らは、漁村の民主化のため漁民の権利が不当に剥奪されないよう組合員を指導監督すべき立場にありながら、右署名運動の中止を勧告、指導することなく、これを傍観、容認したものであり、右漁協が組合としてこのような民主化阻害行為を行つたといい得る。

(3) (海区漁業調整委員会の議決の要否等)

イ 法一四条一項一号は、その前段後段所定の事由のある者について、管轄海区漁業調整委員会(以下「海区委」という。)が総委員の三分の二以上の多数決をもつてその旨認定する投票による議決があることが、定置漁業権免許取得の欠格要件である旨規定するところ、石狩後志海区委は、前記第六次切替えに係る免許申請につき審議した際に、石狩漁協について、法一四条一項一号所定の事由がある者と認める旨の議決をせず、逆に右事由がなく適格性を有する旨の議決をした。

ロ しかしながら、右海区委が右欠格議決をしなかつたのは、石狩漁協に前記(1)、(2)の事由が存することを看過した誤つた判断に基づくものであり、違法又は著しく不当なものである。

そうして、右のような海区委の議決が違法又は著しく不当なものであるときには、道知事は海区委の判断の誤りを黙過することなく、海区委に再議を命じ(法一〇三条)、海区委がこれに応じないときには独自の判断をすべきであつて、石狩漁協の右免許申請に対する可否を決する際にも、右漁協には前記(1)、(2)の各事由があつたのであるから、道知事は、右のとおり海区委の再議に付してその欠格認定の議決を経て、あるいは独自の判断により、右漁協につき法一四条一項一号所定の欠格要件があるとして、法一三条一項一号により本件漁業権の免許をしない旨の行政処分をなすべきであつた。

したがつて、本件免許処分は、法一三条一項一号に違反する違法な行政処分である。

(二) 漁業法一三条一項三号違反

(1) 石狩漁協は、前記第五次切替えに際し、さけ定置漁業を組合で自営するとして、第五次第三ないし六号の各定置漁業権免許を受けたにもかかわらず、前記(一)(1)イ、ロで述べた漁業権の貸付け、無届休業のほか漁業権の放棄をして、右各漁業権の免許期間中組合として右定置漁業を自営したのは、わずか第五次第四号につき二年間、同第六号につき四年間にすぎなかつた。

(2) このような漁業協同組合に対し、それが定置漁業権免許取得の最優先順位に立つことをもつてその後も右漁業権を独占させることは、従前から当該漁業を生業の場とし、今後も生業の場とするほかない漁民の生活権を奪つてしまい、定置漁業権の不当な集中をきたす結果となるにもかかわらず、前記第六次切替えに際して、道知事は、石狩漁協に対し、本件漁業権を含め右切替えに係る第一ないし四号の全定置漁業権につき免許処分をした。

したがつて、本件免許処分は、右漁協に同種の漁業権であるさけ定置漁業権を不当に集中させ、漁民多数への漁利の均てんを損う畏れのある違法な行政処分である。

3  過失

(一) 道知事は、前記2(一)、(二)のような事由があるにもかかわらず、前記第六次切替えに係る免許申請に関し、海区委のなした石狩漁協の前記適格性についての議決及び右漁協への免許を認める答申に基づくものとして、右漁協の前記適格性を肯定し、かつ、本件免許処分をしても右定置漁業権の右漁協への不当集中の畏れはないものと判断して、本件免許処分及びそれに伴う本件不許可処分を行つた。

(二) しかしながら、道知事は、適法、適正な定置漁業権免許処分をなすため、関係者の意見聴取や海区委の議事録をはじめとする各種資料の検討を十分に行い、必要な場合には法一〇三条により海区委へ再議を命ずるなどする注意義務があり、加えて、石狩漁協につき前記2(一)、(二)の各事由が存することについては、従前より原告が道知事にこれを指摘して意見具申し、あるいは海区委の議事録において明らかにされていたことから、道知事は、石狩漁協に前記適格性がないこと、本件免許処分により前記漁業権の不当集中をきたす畏れのあることを容易に認識し得る状況にあつたにもかかわらず、右注意義務を怠り、漫然と海区委の誤つた議決や答申に依拠して本件各処分をなしたものである。

4  因果関係、損害

(一) 道知事の本件各処分により、原告は、本件漁業権の免許を取得してその免許期間である昭和五四年から昭和五八年までの五年間右漁業権に係る漁業の操業をすることができなかつた。

(二) その結果、原告は、次のとおり合計一億四〇一八万七四六五円の損害を被つた。

すなわち、石狩漁協の昭和五六年度等の事業報告書によれば、第六次第四号定置漁業の操業による収入と支出の差益は昭和五六年五〇六五万四八七三円、昭和五八年二三八二万五八八三円、昭和五九年一八八三万四六〇九円であり、昭和五七年についても少なくとも一八八三万四六〇九円の差益があつたと推計されるところ、原告が前記昭和五四年から昭和五八年までの五年間右定置漁業を操業した場合にも、右と同程度の年間差益をあげ得たはずであるから、原告は、左記計算式のとおり、少なくとも合計一億四〇一八万七四六五円の得べかりし利益を得ることができなかつたものである。

計算式

(五〇六五万四八七三円+一八八三万四六〇九円+二三八二万五八八三円+一八八三万四六〇九円)÷四年×五年=一億四〇一八万七四六五円

5  被告の国家賠償責任

(一) 道知事が漁業法に基づいて行う漁業の免許に関する事務は、国の委任に基づく機関委任事務である(地方自治法一四八条二項、同法別表第三・一号の八八)ところ、被告は、道知事の俸給、給与を負担し、右機関委任事務たる漁業の免許に関する事務につき費用を負担する者である。

(二) したがつて、本件においては、以上のとおり、国の機関としての地位にある道知事が国の公権力の行使として違法な本件各処分を行い、原告に損害を加えたものであるから、被告もまた、道知事の俸給、給与その他の費用を負担する者として、国家賠償法三条一項に基づき右損害の賠償責任を負う。

6  まとめ

よつて、原告は、被告に対し、道知事の前記不法行為に基づく国家賠償請求として、前記損害合計一億四〇一八万七四六五円のうち四〇〇〇万円及びこれに対する右不法行為の日(本件各処分の日)の翌日である昭和五四年八月九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1は認める。

2(一)  請求原因2及び同(一)の各冒頭の主張は争う。

法一四条一項一号は、定置漁業権の免許についての適格性の存否の判断を海区委に委ね、かつ、海区委が総委員の三分の二以上の投票による多数決によつて、同号所定の事由があると認める議決をした場合に限つて、当該免許申請者の右適格性が否定される旨規定し、右議決の存在が右申請者の欠格要件とされているが、前記第六次切替えに際し、石狩漁協について海区委による右欠格議決はなされていない。

次に、定置漁業権の免許申請者が法一四条一項一号所定の漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠き、又は漁村の民主化を阻害するものであるとするためには、単に個々の法令違反行為、民主化阻害行為が認められるだけでは足りず、これらの行為の存在を前提にしつつ、申請者に対する総合的、全人格的判断としてもその適格性を否定すべき重大な事由があると認定されなければならない。また、右欠格事由の存在が認定されると、定置漁業はもとより他種の漁業を営むことも不可能になるなど申請者に対し重大な不利益を与えることになるので、欠格事由の存否の判断は慎重になされなければならない。

以上の点に鑑みると、本件において、たとえ、請求原因2(一)(1)、(2)で原告が石狩漁協の法令違反行為、民主化阻害行為として主張する個々の行為が立証されたとしても、右漁協が本件各処分当時法一四条一項一号により定置漁業権免許取得の適格性を欠く者であつたとはいえず、本件各処分は何ら違法なものではない。

(1) 請求原因2(一)(1)の冒頭の主張は争う。

イ(イ)a 同イ(イ)は、原告主張のように石狩漁協が第五次第四、五号の各定置漁業権免許を受けたこと、荒谷及び丹野らがそれぞれ原告主張の期間右各定置漁業を操業したことは認めるが、その余は争う。

b 原告主張の荒谷及び丹野らの各定置漁業操業は、漁業権者である石狩漁協から道知事に対し当該期間中の休業届がなされたので、右の者らが法三六条所定の休業中の漁業許可の申請をし、道知事の許可を受けたうえなされたものであり、右漁協との間の私的な漁業権の貸付けに基づいてなされたものではない。右休業中の漁業許可は、申請を待つて、法定の手続、審査を経て道知事が独立した行政処分としてなすものであり、右処分をなすに当つて、当事者間の漁業権貸付けの合意などが介在する余地は全くない。

(ロ)a 同イ(ロ)は、原告主張の覚書の存在及びその記載内容は認めるが、石狩漁協が原告主張の確約書を取り交わしたこと及びその記載内容は知らない。その余は争う。

b 仮に、石狩漁協が丹野らと原告主張のような確約書や覚書を取り交わしていたとしても、右(イ)bのとおり、現実に丹野らが右各書面に基づいて前記定置漁業を操業したわけではなく、右各書面を取り交わしたことが法三〇条所定の漁業権の貸付けに当たるわけではない。

(ハ) 同イ(ハ)は、石狩漁協が各休業届をし、荒谷及び丹野らが休業中の漁業許可の申請をしてその許可を受けたことは認めるが、その余は争う。

ロ(イ) 同ロは、石狩漁協が休業届を懈怠したとする点、右漁協の休業届の懈怠が他の漁民の休業中の漁業許可申請の機会を不当に奪つたとする点は争うが、その余は認める。

(ロ) 法三五条は、一漁業時期以上にわたつて休業することがあらかじめ予定されている場合にのみ、漁業権者に休業の届出義務を課したものであるところ、石狩漁協は、原告主張の期間、第五次第三号、第六号の各定置漁業を休業したものの、右休業は、当初着業する予定であつたものが、前記第五次切替えの際の競争出願者間の調整や着業に必要な従業者確保などが難航したため、着業の機会を逸し、結果的に休業した形になつたものであり、当初から一漁業時期以上にわたつて休業を予定していたものではないから、右漁協が休業届をしなかつたとしても法三五条には違反しない。

また、右第三号定置漁業権は、その対象区域が石狩湾新港の港湾区域内にあつたので、昭和五〇年以降右港湾建設工事のため当該漁業の操業が客観的に困難であり、仮に右漁協から休業届がなされていたとしても、他の漁業者もまた、その休業中の漁業許可を受けて右定置漁業を営むことはできない状況にあつたから、右休業届の欠缺に起因する実害はなかつた。

ハ(イ) 同ハ(イ)は、原告主張の日時、場所で、当時の石狩漁協理事一名、同監事一名を含む五名の者が原告主張の内水面規則違反等により現行犯逮捕されたことは認めるが、その余は争う。

(ロ)a 同ハ(ロ)は、原告主張の日時、場所で、当時の石狩漁協の組合長及び理事等八名の役員を含む組合員三四名が原告主張の海面規則違反により小樽海上保安部に摘発されたことは認めるが、その余は争う。

b 当時、石狩漁協は、第二種共同漁業権に基づき組合員に対し、石狩町沿岸におけるかれい固定式刺し網漁業の操業を承認していたが、右かれい刺し網にさけが混獲されないようにすること及びさけが混獲された場合には必ず右漁協に出荷することを指導しており、右漁協自身が計画的集団的に海面規則違反をなすことはあり得ない状況にあつた。

(ハ) 同ハ(ハ)は争う。

(ニ) 原告が主張する三件の事件は、いずれも石狩漁協自身の行為によつて発生したものではなく、右漁協の一部組合員の関与したものにすぎず、仮にこのような事件があつたとしても、法人としての右漁協の適格性の有無とは無関係である。

ニ 同ニは争う。

(2) 請求原因2(一)(2)の冒頭の主張は争う。

イ(イ) 同イは、原告がかつて石狩漁協の組合員であつたが、これから任意脱退した後、原告主張の日に再加入を申請したこと、原告は右漁協の組合員資格を有していたが、右漁協が加入を拒絶したこと、原告の訴え提起及びその第一審判決が右加入拒絶には正当理由が認められないとして原告の請求を認容したことは認めるが、その余は争う。

(ロ) 石狩漁協が原告の組合加入を拒絶したのは、原告が組合員として備えるべき協同意識を著しく欠き、漁協活動を妨害し、他の組合員の不信感を買つていたので、原告の加入は右漁協の円滑な活動を阻害すると考えたからであつて、正当理由に基づくものである。

なお、右訴訟事件は、その後控訴審において訴訟上の和解により終了した。

ロ(イ) 同ロは、原告主張の請願署名運動がなされたこと、石狩漁協の組合長等理事らが右署名運動の中止の勧告、指導をせず、これを傍観したことは認めるが、その余は争う。

(ロ) 右請願署名運動は、石狩漁協が原告に対し加入拒絶通告をした後に起きたものであるが、個々の組合員によつて自主的自発的に行われたものであつて、理事らはこれに関与していない。加えて、理事らにはこのような個々の組合員の活動を中止させる権限はなく、傍観的態度をとつたとしても何ら失当ではない。

ハ 仮に、原告主張の右請求原因2(一)(2)イ、ロの各事実が存するとしても、これをもつて直ちに石狩漁協が漁村の民主化を阻害する者であるとすることはできない。

(3)イ 請求原因2(一)(3)イは認める。

ロ 同ロは、海区委の議決に関する法一〇三条の規定内容は認めるが、その余は争う。

ハ 法一〇三条は、違法又は著しく不当な海区委の議決があつたとしても、都道府県知事が海区委との関係を何ら調整しないで別個に議決内容と異なる意思決定をすることを回避し、海区委の議決内容を極力そのまま都道府県知事の決定となし得るよう調整すべきことを規定しているのであり、道知事は、前記海区委の議決に違反又は著しく不当とすべき特段の明白な根拠がない限り、最大限これを尊重すべき義務を負う。

前記第六次切替えに際して、道知事が昭和五四年二月二六日、法一二条に基づき海区委に右免許付与につき諮問したのに応じて、海区委は、同年三月七日以降石狩町の現地調査を行うなどして五回にわたつて慎重に審議したうえ、石狩漁協の右免許についての適格性の有無につき投票を行つたところ、適格性なしとしたのは総委員一五名中三名で法一四条一項各号に定める総委員の三分の二以上に達しなかつたので、同漁協は免許についての適格性を有する者であると決定し、更に、同漁協が本件漁業権免許につき優先順位を有する者であるとの議決を行つた。道知事は、本件各処分をなすに当たつて海区委の議事録、関係者の意見等を詳細に検討した結果、海区委の右議決は、手続的にも内容的にも違法又は著しく不当な点は全くないことが明らかであつたので、右の点につき海区委の再議に付すなどせず、右漁協の適格性を認めて本件漁業権の免許を付与することにしたものである。

(二)(1)  請求原因2(二)(1)は、石狩漁協が漁業権の貸付けをしたとの点は争うが、その余は認める。

(2) 同(2)は、道知事が石狩漁協に対し、第六次第一ないし四号の全定置漁業権につき免許処分をしたことは認めるが、その余は争う。

(三)  海区委は、前記(一)(3)ハのとおり、道知事の法一二条に基づく諮問に応じて慎重な審議をし、石狩漁協に前記適格性があるとの絶対多数の投票による議決を経、かつ、右漁協には他に法一三条一項所定の不免許事由はないとしたうえ、第六次第四号定置漁業権については、法定の優先順位によれば右漁協が競争出願者たる原告らに優先すると判断して、右漁協に右漁業権免許を付与すべき旨を答申した。

海区委の右答申に係る判断には違法又は著しく不当な点は全くなく、これに依拠してなされた本件各処分には何ら違法な点はない。

3(一)  請求原因3(一)は、同2(一)及び(二)の事由の存在をいう点は争うが、その余は認める。

(二)  同(二)は争う。

4(一)(1) 請求原因4(一)は争う。

(二)  同(二)は、原告主張の石狩漁協の各年度の収支差益額は認めるが、その余は争う。

5(一)  請求原因5(一)は認める。

(二)  同(二)は争う。

第三証拠 <略>

理由

一  本件各処分に至る経緯等

定置漁業権(その存続期間は、原則として五年とされている―法二一条)は、都道府県知事が、漁場の位置、区域など免許の内容等につき事前に決定、公示したうえ(法一一条)、申請に基づき個別に免許を与えることにより設定される(法一〇条)が、都道府県知事は、右免許申請があれば、申請内容の右事前決定事項との適合性のほか、当該申請者の適格性(法一四条)の有無をはじめ法一三条一項所定の不免許事由の有無及び、競争出願のあるときは免許の優先順位(法一五、一六条)について、それぞれ審査して免許処分の可否を決することとされ、また、その際、右処分の可否につき管轄海区委に諮問してその意見(答申)をきかなければならないこととされている(法一二条)。

そこで、本件漁業権についてこれをみるに、請求原因1は当事者間に争いがないところ、右争いのない事実、<証拠略>によれば、本件各処分に至る経緯等は次のとおりであることが認められる。

1  石狩後志海区におけるさけ定置漁業権については、昭和四四年の第四次切替え(免許期間 昭和四四年から昭和四八年まで)では、石狩町の沿岸全域にわたつて第一ないし七号の七か統の定置漁業権が免許、設定されていたが、右沿岸区域のかなりの部分が新設される石狩湾新港の港湾区域となつたため、昭和四九年の第五次切替え(免許期間 昭和四九年から昭和五三年まで)では、これより一か統減の第一ないし六号の六か統の定置漁業権が免許、設定され、更に、昭和五四年の第六次切替え(免許期間 昭和五四年から昭和五八年まで)では、右港湾区域内(右第四次切替えでは第二ないし四号の三か統の、右第五次切替えでは第二、三号の二か統の各定置漁業権が免許、設定されていた。)には定置漁業権が全く設定されることなく、その余の同町沿岸区域に第一ないし四号の四か統のみの定置漁業権が免許、設定される結果となつた。

2  右第五次切替えにおいて、石狩漁協は、新たに第五次第三ないし六号の四か統の定置漁業権の免許を受け、原告と渡辺精一郎は、従前から共同で一か統の定置漁業権の免許を受けて長くさけ定置漁業を自営していたところ、これと同一の区域に第五次第二号定置漁業権の免許を受けた。

3(一)  前記第六次切替えにおいては、道知事は、前記港湾区域を除く区域に四か統の定置漁業権を設定することにし、法一一条に基づき、漁業種類、漁場の位置・区域、漁業時期その他免許の内容たるべき事項等を定めて、昭和五四年一月二九日付でこれを公示したところ、これに対し、石狩漁協(組合自営)と原告・渡辺精一郎(共同)とが本件漁業権(第六次第四号定置漁業権)免許につき競争出願の形で免許申請をした。前記のとおり、原告らが第五次切替えで免許を受けていた第五次第二号の漁場区域には、第六次切替えでは定置漁業権が設定されないことになり、原告らは右区域とは別個の区域に設定される本件漁業権の免許申請をしたものである。

石狩漁協は、前記四か統全部につき免許申請し、このうち本件漁業権のほか、第一、第三号についても、他の共同申請漁業者との競争出願となつた。

(二)  道知事は、昭和五四年二月二六日、法一二条に基づき石狩後志海区委に対し、右第六次切替えの免許処分に関して諮問し、海区委は、以後、現地調査や関係者からの事情聴取をしながら、五回にわたるかなり詳細かつ慎重な審議を経て、同年七月三〇日付で道知事に対し本件漁業権免許につき次のとおり答申した。

すなわち、海区委は、まず競争出願者たる石狩漁協、原告らの双方について、その申請内容が前記事前決定事項と適合することを前提にして、法一四条一項所定の欠格要件がなく、適格性が認められるとともに、他の法一三条一項各号所定の不免許事由もないとし、次に、右漁協は法一六条八項一号柱書、イ号、ロ号のいずれの要件をも充足する漁協であること、原告らは同条一項一号、二項一号、四項一号所定の各要件を充足する漁業者であることを認定して、双方ともに単独出願であれば免許を受け得る資格を有する旨認めたうえ、法一六条八項柱書に基づき、いわゆる八項法人として定置漁業権免許の第一順位にある右漁協が原告らに優先する旨判断して、その旨答申した。

(三)  道知事は、右答申を受けた後、その内容を検討し、海区委の右判断は相当なものであると評価して、法一〇三条所定の付再議の措置などをとることなく、海区委と同様の判断過程を経て、石狩漁協、原告らの双方に適格性があり、免許資格があるものの、前記優先順位において右漁協が原告らに優先することを理由に、昭和五四年八月八日付で右漁協に対し本件免許処分をする一方、原告らに対し本件不免許処分をした。

(四)  前記競争出願となつた他の二か統の免許申請についても、前記(二)と同様の答申がなされ、道知事は、右(三)と同様、競争出願者間の優先順位によつて石狩漁協が優先することを理由にこれに対し免許処分をし、結局、右漁協は、単独申請した一か統を含め、前記のとおり第六次切替えに係る全定置漁業権免許を取得することになつた。

以上のとおり認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、右認定の事実関係を前提にすれば、本件漁業権の免許に関して、仮に、道知事において、法一四条一項一号の欠格要件を含め、石狩漁協には法一三条一項所定の不免許事由があると判断していたならば、競争出願者間の優先順位を考慮するまでもなく、原告らに対し本件漁業権の免許処分がなされ、反面、右漁協に対してはその不免許処分がなされるべきことになつたことは明らかである。

二  本件各処分の違法性の有無(請求原因2)について

1  石狩漁協の適格性の欠如に関する原告の主張について

(一)  原告は、法一四条一項一号前段後段により石狩漁協には定置漁業権免許取得の適格性がないこと(請求原因2(一))及び右漁協に対し右免許を与えることにより同種漁業権の不当集中をきたす虞れがあつたこと(同2(二))の二点から、右漁協には法一三条一項一号、三号所定の不免許事由があつたことを理由に、本件免許処分は違法である旨主張する。

(二)(1)  ところで、右各主張のうち、適格性の欠如に関しては、法一四条一項一号の規定によれば、当該免許申請者につき、漁業若しくは労働に関する法令を遵守する精神の著しい欠如、又は漁村の民主化阻害者という事由があること自体が欠格要件となつているわけではなく、海区委が総委員の三分の二以上の多数決による投票をもつて右事由の存在を認定する旨議決することが欠格要件となつているところ、原告は、石狩漁協につき右各事由が存することを具体的に主張する(同2(一)(1)、(2))一方、海区委による右欠格議決がなされたことについては何ら主張立証せず、かえつて、<証拠略>によれば、右の議決が存在せず、逆に海区委の総委員一五名中一一名の多数決による投票をもつて右漁協に適格性を認める旨の議決がなされたことが認められ、原告もこの点を自認している(同2(一)(3)イ)。

そうして、原告は、請求原因2(一)(3)ロのとおり、本件においては、右欠格議決を欠くものの、道知事は、法一〇三条所定の付再議の措置を経て、海区委の欠格議決を得、あるいはその独自の判断により、右漁協には欠格要件があるとして法一三条一項一号により本件漁業権につき不免許処分をなすべきであり、本件免許処分は、結局法一三条一項一号に違反すると主張する。

(2) しかるところ、右欠格議決は、海区委が議決機関としてその独自の権限に基づいてなすものであるから、右議決がなされていない場合でも、当該免許申請者につき法一四条一項一号所定の事由があると認められることをもつて、直ちにその適格性が否定されると解することができないのは当然であるが、反面、法一〇三条の規定の趣旨等に鑑みると、客観的には右事由の存在が明らかであつても、海区委の(当初の)審議の中で右議決がなされてさえいなければ、当該免許申請者の適格性の存否を問題にする余地はなく、常に、都道府県知事がその適格性を承認して免許処分をすることが違法ではないとまで解するのもまた相当とはいえない。本件において、仮に、原告主張のように石狩漁協につき法一四条一項一号前段後段所定の事由が存すると認められる場合に、海区委が右欠格議決をしなかつたことが違法又は著しく不当であり、加えて、道知事において、海区委への付再議の措置を経て、その欠格議決を得たうえ、あるいは海区委があくまで右議決をしなければその独自の判断により、右漁協の適格性を否定して法一三条一項一号に基づき本件漁業権の不免許処分をなすべき義務があつたとするに足りる事実関係が認められるときには、本件免許処分は違法であると解する余地が存するというべきである。

したがつて、法一三条一項一号との関係で道知事の本件免許処分の違法性を主張する原告の前記請求原因2(一)の主張は、右に述べた趣旨において必ずしも主張自体失当とはいえない。

(3) そこで、原告の右主張については、まず、石狩漁協に係る法一四条一項一号前段後段所定の事由の存否(請求原因2(一)(1)、(2))につき判断し、それが認められる場合には、更に、右(2)で指摘したような事実関係の存否につき検討することにする。

2  漁業法一三条一項一号違反の有無(請求原因2(一))について

(一)  同法一四条一項一号前段所定の事由の存否(同(1))

(1) 漁業権の貸付けの有無等(同イ)

イ 請求原因2(一)(1)イのうち、石狩漁協が、前記第五次切替えに際し、昭和四九年八月二〇日付で道知事から第五次第四、五号の各定置漁業権免許を受けたこと、荒谷が昭和四九年から昭和五一年までの三年間右第四号の、丹野一美及び丹野義美が昭和四九年から昭和五三年までの五年間右第五号の各定置漁業をそれぞれ操業したことは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、石狩漁協は、右第四号につき昭和四九年から昭和五一年までの三年間、右第五号につき昭和四九年から昭和五三年までの五年間、各年ごとに道知事に休業届をし、これに対応して、右各休業期間中各年ごとに右第四号については荒谷が、右第五号については丹野らが共同で、それぞれ道知事に休業中の漁業許可の申請をし、その許可を受けたことを認めることができる。

ロ 次に、請求原因2(一)(1)イ(ロ)のうち、原告主張の覚書の存在及びその記載内容は当事者間に争いがないところ、右争いのない事実、<証拠略>によれば、前記第五次第五号定置漁業権については、当時の石狩漁協の組合長が右漁協の免許取得の五か月前の昭和四九年三月一四日付で丹野一美との間で、同人に対しさけ定置漁場を同年四月一五日までに与えるよう取り計ることを確約する旨明記した「確約書」(<証拠略>)を取り交わし、更に、右免許取得後同年九月一四日付で、右組合長が、石狩漁協組合長理事との顕名をし、名下に組合長印を押捺したうえ、丹野ら両名との間で、右漁協は右免許に係る定置漁業を丹野らに無条件で昭和四九年より五年間操業させること、右漁協は一年ごとに右定置漁業につき遅滞なく休業届を道知事に提出し、丹野らの操業に支障を与えないようにすることを明記した「覚書」(<証拠略>)を作成して、当事者双方が各一通を保有することにしたことが認められる。

ハ そうして、右イ、ロの各認定事実に加えて、<証拠略>を総合すると、

(イ) 漁業法上、法一六条八項一号の要件を充足する漁協は定置漁業権の免許の優先順位が常に第一順位であるとされているところ、前記第五次切替えに際して、丹野らは、従前から丹野一美が共同申請漁業権者(第四次第六号)の一員として自営してきたさけ定置漁業の継続を強く希望して、右第四次第六号と同一区域に設定される第五次第五号定置漁業権の免許を申請し、また、荒谷は、新たに個人漁業権者として右定置漁業を自営しようとして第五次第四号定置漁業権につき免許を申請したものの、従前右定置漁業を自営していなかつた石狩漁協が新たにこれらと競争出願の形で右各免許の申請をしたため、丹野ら及び荒谷は、いずれも、右各免許につき適格性や他の免許資格を備えていたにもかかわらず、右漁協の適格性等が否定されない限り、前記優先順位の定めによつて右各免許を取得し得ない結果になることは、当初から明らかであつたこと、

(ロ) そのため、右の者らは、右漁協の免許申請に対し強い不満を抱き、とりわけ丹野らは、右免許申請は、その既得権を喪失させ、長く継続してきた生業の場を奪うものとして、これに強く反発し、右免許の審査の過程で、海区委や石狩支庁、北海道の関係部局の担当者等に対しても、右の者らの右定置漁業操業を可能にするよう善処方を強く要請したこと、

(ハ) これに対し、石狩漁協としては、右各免許申請を維持することにより、水協法五〇条所定の組合員による特別決議を経た申請であることや多数組合員の利益擁護などの建前を貫く必要があつた反面、その組合員でもある右の者らの利益の侵害や紛争の深刻化の回避をも考慮せざるを得ない状況にあつたことに加えて、前記関係部局の担当者等も右両者間の利害調整をあつせんしたことから、右担当者等をも混じえて話合いがもたれるなどしたこと、

(ニ) その結果、少なくとも、右漁協と荒谷及び丹野らとの間では、右漁協において、取得した前記各免許に係る定置漁業を一定期間自ら操業せずに、それぞれ無償で専ら右の者らに操業させるという合意がなされ、更に、道知事の許可処分という法的には右両者の処分権の埓外にある不確定要因を残しつつも、右両者の意図としては、右担当者等の了解が得られることを期待したうえ、右の合意を履行する手段として前記イの休業届及び休業中の漁業許可申請をなすことも約束されたこと、

(ホ) 右約束に基づき前記イのとおり右両者が現に右の各措置をとつたところ、それについて道知事の許可処分がなされた結果、荒谷及び丹野らの前記各定置漁業操業は、法的には、右許可によつて創設された権能に基づくものであることになつたこと、

以上の各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ニ そうすると、右ハ(ニ)の合意は、競争出願者間の利害調整のため無償でなされたものではあるが、実質的には、石狩漁協が前記各定置漁業権の行使をそれぞれ荒谷及び丹野らに委ね、その利益を専ら右の者らに帰属させるという意味で漁業権の貸付けを目的とした合意に当たるというべきであり、かつ、右両者は、右合意内容を実現するために休業中の漁業許可の制度を脱法的に利用したものであり、右漁協がなした前記ハ(ニ)の合意、約束及び休業中の漁業許可申請は、全体としてこれをとらえれば、実質的には法三〇条の趣旨に違反するものといわなければならない。

なお、本件全証拠によつても、道知事の右各休業中の漁業許可処分自体の手続の過程等は必ずしも明らかではなく、また、右処分が前記のような休業届や許可申請に対するものであることをもつて直ちにそれについて重大明白な瑕疵があり、右処分が無効であるとすることはできない。

(2) 無届休業の有無等(同ロ)

イ 法三五条によれば、漁業権者が一漁業時期以上にわたつて休業することをあらかじめ決めた場合はもとより、当初着業の予定であつたものが、途中から一漁業時期以上にわたつて休業せざるを得ない見通しになつた場合にも、休業期間を定めてその旨都道府県知事に届け出なければならないと解されるところ、請求原因2(一)(1)ロのうち、石狩漁協は、前記第五次切替えに際し、第五次第三号及び第六号の各定置漁業権の免許を受けたが、右第三号については昭和四九年から昭和五一年までの三年間、右第六号については昭和五〇年の一年間、いずれも一漁業時期以上にわたつて休業したこと、右各休業につき道知事に対し休業届をしなかつたことは当事者間に争いがない。

ロ そこで検討するに、<証拠略>によれば、右第六号については、石狩漁協は、当初昭和五〇年の漁期にも着業する予定であつたものが、着業に必要な従業者の確保が難航したり、さけの来遊状況の見極めなどに時日を費やすなどして、休業の見通しを立てることができないままに結果的に休業してしまうことになつたと認められるものの、右第三号については、右漁協は、昭和四九年当時、その漁場が石狩湾新港の港湾区域内にあり、既に工事も進行していたのに、あえて免許を取得し、前記の三か年とも、当初から休業の見通しを立てていたにもかかわらず、法三五条に違反して休業届を懈怠したことが明らかである。

ハ もつとも、<証拠略>によれば、右第三号は、右のとおり当初から着業・操業することが危ぶまれた区域に設定され、被告主張のように、仮に右漁協の休業届が履践されていたとしても、他の漁業者が休業中の漁業許可により定置漁業を営むこともまた、困難な状況にあつたと窺われる(なお、右各証拠によれば、右漁協が昭和五二年右第三号定置漁業権を放棄していることが認められる。)。

(3) 北海道内水面漁業調整規則違反、北海道海面漁業調整規則違反の有無等(同ハ)

イ 請求原因2(一)(1)ハ(イ)のうち、昭和五一年一〇月七日夜から翌八日朝にかけて、当時の石狩漁協の理事一名、同監事一名を含む五名の者が石狩町生振地内石狩大橋から上流二キロメートルの石狩川左岸において、川舟七隻を用いて刺し網をかけてさけ成熟魚一〇〇余匹を密漁し、内水面規則違反等(<証拠略>によれば、水産資源保護法二五条違反も含まれていると認められる。)により現行犯逮捕されたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、その後、右五名のうち少なくとも三名が右密漁を理由に有罪判決を受けたこと(正確な罪名及び刑罰は不明)、当時右事件は漁協の役員が積極的に関与した密漁事件として大きな社会的非難を受け、北海道の関係部局が、右漁協の組合ぐるみの不祥事と指摘されてもやむを得ない旨の見解を表明したとの新聞報道もなされたことが認められる。

ロ 請求原因2(一)(1)ハ(ロ)のうち、昭和五一年一〇月一四日、当時の石狩漁協の組合長及び理事等八名の役員を含む組合員三四名がさけを密漁し、海面規則違反により小樽海上保安部に摘発されたことは当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、その後、右事件に関して右三四名のうち二名が罰金刑を受け、他の者は起訴猶予処分になつたこと(正確な罪名は不明)、右の事件は他種の刺し網によるさけ混獲防止が求められていた中で摘発されたものであり、右漁協の組合員の半数近くが関与したものとして社会的な非難を受けたことが認められる。

ハ しかし、請求原因2(一)(1)ハ(ハ)については、<証拠略>によれば、前記第六次切替えの際の海区委の審議や知事の審査の過程において、一部の委員や関係者から、右イ、ロの各事件以外にも、右主張事実を含め右漁協の組合員による違法採捕事案がある旨指摘されたことを認めることができるが、この点を超えて原告主張の右違法行為の存在まで証明するに足りる証拠はない。<証拠略>中には、一部右主張に沿う供述部分もあるが、<証拠略>に照らせば、右供述部分に依拠して右主張事実を認めることはできない。

ニ ところで、前記イ、ロの各認定事実は、直接的には役員を含む石狩漁協の個々の組合員による犯罪行為の存在を示すものではあるが、右漁協自体が内水面規則、水産資源保護法、海面規則所定の法人処罰規定によつて処罰され、あるいは検挙されたことを示す証拠はなく、むしろ、弁論の全趣旨によれば、右処罰、検挙はなかつたと窺われる。

そうして、前記イ、ロで挙げた各証拠によれば、前記イ、ロの各事件は、石狩漁協の役員が関与、加功していたことなどから、当時、世間的には、右漁協がいわば漁協ぐるみで違法行為をなしたと評されてもしかるべき状況にあつたと認められるが、本件全証拠によつても、右漁協が組合としての意思決定に基づいてこれらの違法行為を敢行したこと、あるいは、犯行の態様、各組合員の加功の状況等からみて、右行為を実質的に組合の行為として評価し得るとするに足りる事実関係の存在を認めることはできない。

(4) 法令遵守精神の著しい欠如の有無(同ニ)

法一四条一項一号前段所定の漁業に関する法令を遵守する精神を著しく欠く者とは、たびたび悪質な漁業関係法令(漁業法、水産資源保護法、内水面規則、海面規則がこれに当たることは当然である。)違反を行い、あるいは重大な右法令違反をなすなどして、右法令を遵守する精神が全く認められないか、又は極めて希薄であると認められる者をいうと解され、一回の違反であつても、右法令遵守精神の著しい欠如の表徴となり得べきものもあると解されるところ、以上(1)ないし(3)の認定説示を前提にして、本件免許処分当時石狩漁協について、右のような意味で法一四条一項前段所定の事由が存したといえるか否かにつき検討する。

イ まず、前記(1)ニのとおり、同ハ(ニ)、(ホ)で認定した石狩漁協の行為は、実質的には法三〇条に違反するものであるが、同ハ(イ)ないし(ハ)で認定したように、右行為は、専ら競争出願をしたいわゆる八項法人たる漁協と個人又は共同申請漁業者との利害調整を図るために無償でなされたものであり、不在地主的漁業権者の排除により現実の漁業操業者を保護するという法三〇条の主たる立法趣旨に反する面は少ないことに鑑みると、右の点をもつて右行為を直ちに正当化することはできないものの、その違法性の程度は必ずしも高くはなく、また、これに起因して右漁協の定置漁業権免許の適格性の否定という一般的かつ重大な結果をもたらしめるほどに悪質なものでもないと解される。

原告は、右漁協が休業中の漁業許可制度を脱法行為的に利用したことをもつて一層悪質であるとも主張するところ、確かにこのような脱法的手段をとつたこと自体非難に値することは当然であるが、逆に、前記荒谷や丹野らの定置漁業操業が、まがりなりにも道知事の審査を経てその許可処分に基づきなされたことは、全体的に見て右漁協の行為の違法性、非難可能性を減ずる面もあると解される。

ロ 次に、前記(2)ロで認定説示したように、石狩漁協の第五次第六号定置漁業の休業は必ずしも法三五条に違反しないが、第五次第三号の休業は法三五条に違反する無届休業である。

しかし、無届休業の一般的な違法性の程度自体は必ずしも極めて高いとはいえないことに加え、法三五条の立法趣旨及び前記(2)ハの認定事実に鑑みると、右認定の右漁協の無届休業が右イで述べたと同様の意味で悪質、あるいは重大な法令違反行為であるとまで断ずることはできない。

ハ また、前記(3)イ、ロで認定した違法行為自体は悪質かつ相当に重大なものであると解されるものの、同ニで認定説示したところによれば、もともと石狩漁協自体が右違法行為をなしたという前提に立つて、その法令遵守精神の欠如を論じることは当を得たものとはいえないばかりでなく、右漁協の役員や組合員が前記(3)イ、ロのような態様で右違法行為を敢行したことをもつて、右各個人を超えた組織体である右漁協の前記法令遵守精神の著しい欠如を推認させるに足りる事実関係もまた見い出し難い。

ニ 更に、前記(1)ないし(3)の各認定事実を総合して観察すると、確かに、当時、石狩漁協においては、漁業法等の漁業関係法令遵守の精神に欠ける面があり、右法令軽視の風潮があつたことは否めないものの、なお、右イないしハで認定説示したところを前提とする限り、右漁協が、全体的に見て悪質な違法行為を繰り返し、右法令遵守精神を著しく欠いていたとまで認めることはできない。

ホ (まとめ)以上のとおり、本件においては、本件各処分当時石狩漁協について法一四条一項一号前段所定の事由があつたとまではいえない。

(二)  漁業法一四条一項一号後段所定の事由の存否(同(2))

(1)イ 請求原因2(一)(2)イのうち、原告がかつて石狩漁協の組合員であつたが、これから任意脱退した後、昭和五三年一二月二三日再加入を申請したこと、原告は右漁協の組合員資格を有していたが、右漁協が加入を拒絶したこと、原告が昭和五四年四月右加入承諾を求めて訴えを提起した(当庁昭和五四年(ワ)第六二八号)ところ、その第一審判決(昭和五七年二月一日言渡し)は、右加入拒絶には正当理由が認められないとして原告の請求を認容したことは、当事者間に争いがなく、<証拠略>によれば、右漁協の右加入拒絶については水協法二五条所定の正当理由があつたとはいえないこと(被告はこの点につきほとんど反証していない。)が認められる。

ロ しかし、右争いのない事実並びに<証拠略>を総合すれば、右漁協の理事であつた原告が組合の赤字解消策等に強硬に反対したうえ、昭和五〇年六月右漁協を突然脱退した経緯や、右脱退前後から再加入申請に至るまでの原告のかなり強引な言動に関し、事の当否は別として大多数の組合員が強く反感を抱き、原告に対する対立感情は抜き難いものになつていたこと、原告の右脱退当時の言動には、他の組合員の立場から見れば身勝手ないしは無責任とみられてしかるべき面もあつたこと、もまた認められ、<証拠略>中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定に反する証拠はないところ、これらの点に鑑みれば、確かに前記加入拒絶は水協法二五条に違反するものではあるが、前記当時、右漁協は、右認定のような状況を考慮して多数組合員の意向を尊重する限り、原告の前記再加入申請を容易には承諾し難い立場にあつたことも否定できず、右加入拒絶に係る紛争に関し右漁協のみを一方的に強く非難することは必ずしも当を得ない状態にあつたと認められる。

ハ しかして、法一四条一項一号後段所定の「漁村の民主化を阻害する者」とは、漁村で漁民が自由に自己の意思を表明することができ、その自由意思による討議に基づいて漁場の利用や漁協の管理運営などが決せられることについて、各個の漁民の自由意思を不当に圧迫し、自由な意見表明の機会を奪つて、自己の力でほしいままに漁村を支配しようとする者をいうと解されるところ、右ロで認定説示した事実関係の下では、右イのように石狩漁協が、組合員資格のある原告の加入を拒絶したことをもつて、右の意味において漁村の民主化阻害者に当たるとまではいえない(なお、前記(一)(1)ないし(3)で認定した各違法行為と右水協法違反の事実とを併せても、前記(一)(4)及び右(二)(1)ロの各認定説示に鑑みれば、なお石狩漁協につき法一四条一項一号前段所定の事由があると認めることもできない。)。

(2)イ 次に、請求原因2(一)(2)ロのうち、まず、原告の右訴え提起後昭和五四年六月ころから、石狩漁協の元監事長が中心になつて、組合長に対し原告の組合加入を絶対に拒否するよう求める請願署名運動を展開し、多数の組合員の署名を集めたことは当事者間に争いがない。

そこで検討するに、前記(1)ロで述べたように、当時右漁協の多数の組合員が原告の再加入に反対していたと認められるところ、これらの組合員がその旨自己の意思を表明し、自ら加入拒絶の正当理由があると判断したうえ、組合執行部に対し、自主的にその請願活動を行うこと自体は、何ら非難されるべきことではなく、むしろ組合員による民主的活動の範ちゆうに属するものである。

しかし、右争いのない事実並びに<証拠略>を総合すれば、前記請願署名運動は、既に右漁協が原告に加入拒絶を通知し、これに対して原告が法的手段をとつた後になつて、右のような意味での組合執行部に対する原告の加入反対の意思表明、加入拒絶要請の範囲を超え、少なくともその主導者においては、一方的に原告を強く非難し、漁村社会から排斥する内容の文書を配付又は提示して各組合員に同調、署名を求め、ことさら地元漁村における原告排斥の地域感情を助長させて原告を白眼視し、一層孤立化させ、また、訴訟の過程で原告に対し心理的に圧力を加えることをも十分認識したうえなされた、原告排斥運動の色彩が強いことや、右運動が展開される中で、原告は現に孤立の度合を一層深め、日常生活においても有形無形の支障が生じたことが推認される。

そうすると、右運動の主導者は、右認定の限りにおいて、前記の意味で漁村の民主化を阻害する畏れの強い行為をなしたものというべきである。

ロ しかしながら、請求原因2(一)(2)ロのうち、石狩漁協の組合長等理事らが前記運動の中止を勧告、指導せず、これを傍観したことは当事者間に争いがなく、更に、<証拠略>によれば、右組合長ら執行部において右運動の展開を黙認し、なすにまかせていた節が見受けられるものの、本件全証拠によつても、右執行部が右運動に積極的に関与、加担し、若しくは背後でこれを画策、指導し、又は右運動が実質的には右漁協による組織的活動として展開されたことまでは認めることができない。

そうすると、前記イで認定説示した事実関係の下では、右執行部に強制的権限はないものの、制度上漁村の民主化の中核的機構とされている漁協の指導者としては、右運動が前記イの正当な範囲内のものにとどまるよう勧告、指導することが望ましく、右のとおり傍観、黙認したことは相当ではなかつたというほかないが、前記(1)で認定した水協法違反事実と併せ考慮しても、それ以上に、石狩漁協が組合として自ら漁村の民主化を阻害し、又は阻害する畏れの強い行為をなしたものであるとまで認めることはできないことになる。

(3) (まとめ)以上のとおり、本件においては、本件各処分当時石狩漁協について法一四条一項一号後段所定の事由があつたとまではいえない。

(三)  まとめ

以上(一)、(二)で各認定説示したとおり、本件においては、本件各処分当時石狩漁協について法一四条一項一号前段後段所定の事由があつたことを認めることはできないから、原告の法一三条一項一号所定の不免許事由の存在を理由とする本件各処分の違法性の主張(請求原因2(一))は、前記1(二)(2)で述べた特段の事実関係の存否について検討するまでもなく失当といわなければならない。

3  漁業法一三条一項三号違反の有無(請求原因2(二))について

(一)  前記一で認定したとおり、前記第六次切替えにおいては、石狩町沿岸に設定されることになつた四か統のさけ定置漁業権のすべてにつき石狩漁協が組合自営として免許を申請し、うち本件漁業権を含む三か統については他の共同申請漁業者と競争出願となつたが、結局右漁協が本件免許処分を含め、右四か統全部につき定置漁業権の免許処分を受けた結果(請求原因2(二)(2)のうち右全免許取得の点については争いがない。)、同一海域に設定される同種漁業権が右漁協に集中することになつた。

(二)  そこで、本件各処分当時、石狩漁協への右漁業権集中が法一三条一項三号所定の不当集中の畏れのあるものに当たつたか否かについて検討する。

(1) 前記一、二2(一)(1)の各認定事実並びに<証拠略>によれば、石狩町沿岸では、従前第五次切替えまでは個人又は共同申請漁業者に対してもさけ定置漁業権免許が与えられ、これらの者は長く舟隻、漁具等の資本投下をして生業として右定置漁業を営んできたが、前記第六次切替えで石狩漁協が全定置漁業権の免許を取得した結果、これらの自営漁業者による定置漁業は廃止され、右の者らは自営漁業経営者として定置漁業操業の利益を得る機会を失つたこと、右切替えの際の免許の競争出願は、いずれも原告を含め右従前からの自営漁業者が主体となつて共同申請したものであるが、右各共同申請者は、いずれも原告と同様定置漁業の欠格要件や不免許事由はないものの、法一六条所定の優先順位によれば、所定の割合を超える多数の地元漁民により構成される石狩漁協に劣後するとの理由で不免許処分を受けたこと、従前、漁業法上定置漁業権免許の優先順位第一位とされ、欠格要件や不免許事由さえなければ必ず右漁業権免許を取得し得る法一六条八項所定の漁協等の法人が、前記海域に設定される定置漁業権のすべてにつき免許を申請したことはなかつたのに、第六次切替えでは、右漁協は、前記自営漁業者らの強い反対にもかかわらず、右全免許取得を図つて免許を申請したことが認められる。

右認定事実によれば、第六次切替えにおいて石狩漁協に前記定置漁業権が集中したことは、結果的には、前記海域でさけ定置漁業経営を希望する漁業経営者相互間での均等な漁業権配分にもとる面があつたことは否定できず、また、従前右定置漁業を自営してきた漁業者の側から見れば、その既得の利益を無視するものに見えたことも否めない。

(2)イ しかしながら、漁業法は、共同漁業権の主体を漁協又はその連合会に限定する(法一四条八、九項)とともに、前記のとおり定置漁業権についても、水協法所定の組合員の特別多数による議決を経て申請される限り、漁協に最優先にその免許を取得させる旨規定する(法一六条八項)が、これは、漁業法自体が、漁業経営者レベルでの漁利の均てんよりも現実に漁業に従事する漁民レベルでのそれを大きく重視、優先させ、加えて、個人又は共同申請漁業者による操業の場合とは異なつて、漁協が定置漁業を自営する場合には、組合員たる多数の漁民がこれに従事し、漁利の配分にあずかり得ることが制度的に保障されており、漁民レベルでの漁利の均てんを図るためには、制度上漁協に定置漁業権を最優先で取得させることが必要であるとしていることにほかならないと解される。

この点に鑑みれば、第六次切替え当時、石狩漁協に前記定置漁業権が集中することにより、右(1)で述べた漁業経営者相互間での漁業権の均等配分に欠けるという面に加えて、漁民レベルでの漁利の均てんを著しく害する畏れがあつたと認められなければ、右漁業権集中について不当集中の畏れがあつたとはいい難いことになる。

ロ そこで、右のような事実関係の存否について更に検討するに、請求原因2(二)(1)のうち、石狩漁協は第五次切替えに際し、さけ定置漁業を組合で自営するとして、第五次第三ないし六号の各定置漁業権の免許を受けたにもかかわらず、休業や漁業権の放棄をして、右各漁業権の免許期間中組合として右定置漁業を自営したのは、わずか第四号につき二年間、第六号につき四年間にすぎなかつたことは当事者間に争いがなく、第四、五号の休業は実質的には法三〇条違反の漁業権貸付けに当たる行為の一環としてなされ、第三号の休業は法三五条に違反する無届休業であつたことは前記認定のとおりである。

そうすると、<証拠略>によれば、個人又は共同申請漁業者が定置漁業を自営する場合にも相当数の地元漁民を雇い入れて、これに漁業機会を与えることが認められるのであるから、第六次切替え当時、石狩漁協において、全定置漁業権免許を申請しながら、右のように実質的には他の自営漁業者に漁業権を行使させ、あるいは無届休業をなす事態が容易に予測できる状況にあつたとしたら、前記のとおり制度的には漁協自営の場合多数の漁民への漁利の均てんが保障されているとはいえ、石狩漁協への前記定置漁業権集中については、漁民への漁利の均てんを著しく害する畏れがあつたといい得る余地があると解される。

ハ しかし、<証拠略>によれば、第六次切替手続の過程においては、前記2(一)(1)で認定したような競争出願者間の利害調整作業や実質的な漁業権貸付合意などはなされなかつたこと、右切替えに係る各定置漁場は、前記港湾区域外にあることから、同(2)ロで認定したような当初から休業が見通されるものはなかつたこと、現に第六次切替免許期間中右漁協は前記全漁業権につき休業せずに自営したことが認められるのであつて、結局、本件においては、右切替当時、右ロで指摘したような事態が容易に予測される状況にあつたとはいえないことになる。

ニ <証拠略>中には、当時、右漁協が前記定置漁業権を取得しても十分な操業態勢を組むことができず、組合員に漁業機会を与え得ないことが明らかであつたとの供述部分があるが、前記(1)の各証拠に照らせば、右供述部分をそのまま採用することはできず、また、本件全証拠によつても、ほかにも、当時、右漁協への前記定置漁業権の集中が漁民レベルでの漁利の均てんを著しく害する畏れがあつたとするに足りる事実関係を認めることはできない。

(3) なお、前記一、二2(一)(1)の各認定事実並びに<証拠略>によれば、前記(1)の認定事実のほかに、荒谷及び丹野らも第六次切替えで不免許処分となつた競争出願者の一員であるが、右の者らについては、前記2(一)(1)で認定説示したとおり、本来第五次切替えの結果定置漁業権を取得しないことになつたのに、その既得の利益を擁護するため、石狩漁協は休業中の漁業許可制度を借りて右の者らにさけ定置漁業を操業させるという手当てをしていたこと、原告及び渡辺精一郎はもともと第五次切替えまでは第六次切替えによる定置漁業権設定区域とは別の区域に右漁業権免許を受けていたが、前記港湾建設に伴う右漁業権消滅に対する補償を受領したうえ、第六次第四号の免許を申請したこと、右港湾建設によつて石狩町沿岸の定置漁業権設定海域が大きく狭められ、設定統数も減少したことも、右漁協による前記全定置漁業権免許申請の大きな理由となつたことが認められ、前記(1)の認定事実と右認定の点を併せ考慮すると、もともと漁業法上存続期間を限定して設定される定置漁業権について、第六次切替えにおいて、法定の優先順位に従つて石狩漁協が免許を受け、反面、原告ら従前免許を受けていた自営漁業者が右免許を取得できない結果となつたことをもつて、右漁業者の保護されるべき利益を不当に奪つたとまで断ずることもできない。

(三)  (まとめ)以上によれば、第六次切替えにおいて、石狩漁協に対し本件免許処分をなしても、同種漁業権の不当集中をきたす畏れがあつたとはいえないから、原告の法一三条一項三号所定の不免許事由の存在を理由とする本件各処分の違法性の主張(請求原因2(二))は失当といわなければならない。

4  まとめ

以上1ないし3で認定説示したとおり、本件においては、本件各処分が違法な行政処分であるとする原告の主張は失当である。

三  結論

以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の本件国家賠償請求は理由がないことになるので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 根本眞 中山一郎 石田裕一)

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